歯科の臨床現場において、患者さんから「永久歯が生えてこない」という相談を受けることがあります。レントゲンを撮ってみると、歯肉の中に後継永久歯が存在しないケースがあり、これを先天性欠損と呼びます。特に下の歯で発生しやすいのが特徴で、第2小臼歯や側切歯の欠損が多く報告されています。日本小児歯科学会の調査によれば、永久歯の先天性欠損を持つ子供の割合は約10.1%に達しており、決して珍しいことではありません。本来であれば下の永久歯は14本から16本生えるはずですが、生まれつき1本から数本足りない状態です。この場合、どのような問題が生じるのでしょうか。まず、乳歯が抜けた後に永久歯が生えてこないため、その場所が空席になってしまいます。あるいは、永久歯がないことで乳歯がいつまでも抜けずに残り続ける「乳歯晩期残存」という状態になります。乳歯は永久歯に比べて根が短く脆いため、大人になっても使い続けることは難しい場合が多く、いつかは抜けてしまうリスクを抱えています。下の歯の本数が少ないことで生じる噛み合わせのズレは、周囲の歯の移動や顎関節症の原因にもなり得ます。対策としては、まず早期発見が鍵となります。7歳頃にパノラマレントゲン撮影を行うことで、将来生えてくるはずの永久歯の本数を全て把握することが可能です。欠損が判明した場合は、矯正歯科と連携した長期的な治療計画を立てます。乳歯をできるだけ長持ちさせて活用する方法や、矯正治療によって他の歯を移動させ、隙間を綺麗に埋める方法、あるいは大人になってからインプラントやブリッジで補う方法など、症例によって最適な選択肢は異なります。特に下の歯の本数が少ないと、下の顎の成長が抑制されたり、顔貌に影響が出たりすることもあるため、専門医による慎重な経過観察が必要です。先天性欠損は遺伝的な要因や環境要因が複雑に絡み合って起こると考えられていますが、本人や保護者が過度に悲観する必要はありません。現代の歯科医療では、本数が足りないというハンディキャップを補い、機能的にも審美的にも満足のいく咬合状態を作り上げることが十分に可能です。大切なのは、自分の下の歯が本来あるべき本数より少ないという事実を正確に認識し、それに基づいた適切なメンテナンスを継続していくことです。歯の本数が少なくとも、1本1本の歯に与えられた役割を最大限に活かすことで、健康な食生活を送ることは十分に可能です。