日中はそれほど気にならないのに、夜ベッドに入って横になると急に歯がズキズキと痛み出すという現象は、歯科疾患において非常によく見られる症状の1つです。この現象が起こる最大の理由は、体位の変化に伴う頭部への血流の変化にあります。起きているときは重力の関係で血液は下半身に溜まりやすい状態にありますが、横になると心臓と頭が同じ高さになるため、頭部へ流れ込む血液の量が増加します。これにより、歯の内部にある歯髄と呼ばれる神経が通っている組織の血圧、すなわち内圧が上昇します。歯髄はエナメル質や象牙質といった非常に硬い組織に囲まれた閉鎖的な空間であるため、血流が増えて内圧が上がると、逃げ場を失った組織が神経を強く圧迫し、激しい拍動性の痛みを引き起こすのです。この症状の多くは、歯髄炎と呼ばれる神経の炎症が進行しているサインです。虫歯が深くなり、細菌が神経にまで達している場合や、過去に治療した詰め物の下で虫歯が再発している場合に多く見られます。また、歯髄炎には可逆性と不可逆性の2つの段階がありますが、横になっただけで激痛が走る場合は、すでに神経を取り除かなければならない不可逆性歯髄炎に達している可能性が極めて高いと言えます。さらに、歯そのものではなく、歯を支える周囲の組織である歯周組織に原因がある場合もあります。歯周病が進行して歯茎に膿が溜まっている状態でも、血流の変化によって圧力が上がり、同様の痛みが生じることがあります。加えて、上の奥歯が痛む場合には、鼻の奥にある副鼻腔の炎症、いわゆる上顎洞炎が関わっているケースも珍しくありません。上顎洞炎になると、横になった際に副鼻腔内の膿が移動したり、粘膜の腫れが歯の根元を圧迫したりすることで、歯の痛みとして感じられることがあります。このように、横になると歯が痛いという症状は、お口の中やその周辺で何らかの深刻なトラブルが起きているという身体からの警告です。放置すると炎症が骨の中にまで広がり、顔全体が腫れ上がったり、最悪の場合は抜歯を余儀なくされたりすることもあります。日中の痛みが軽いからといって油断せず、夜間の痛みを自覚した時点で、できるだけ早く歯科医院を受診することが重要です。早期に適切な診断を受け、痛みの原因となっている部位を特定し、根管治療などの専門的な処置を施すことで、安眠を妨げる苦痛から解放され、歯の寿命を延ばすことにつながります。