「ただの咳が続くだけだろう」と、大人の百日咳を甘く見て、適切な治療を受けずに放置してしまうと、単に咳が長引くだけでは済まされない、様々なリスクや合併症を引き起こす可能性があります。特に、体力や免疫力が低下している人にとっては、その影響はより深刻なものとなり得ます。最も直接的で、多くの人が経験するのが、激しい咳そのものによる身体的なダメージです。一度咳き込むと止まらない、息もできないほどの激しい咳発作(咳嗽発作)は、想像を絶する体力を消耗します。夜中に咳で何度も目が覚めるため、深刻な睡眠不足に陥り、日中の仕事や生活に大きな支障をきたします。また、あまりに強く、そして繰り返し咳き込むことで、肋骨にひびが入ったり、骨折してしまったりすることさえあります。咳の衝撃で失神してしまったり、嘔吐を繰り返して脱水症状や栄養障害に陥ったりするケースも報告されています。これらは、生活の質(QOL)を著しく低下させる、非常に辛い症状です。しかし、大人の百日咳における最大のリスクは、自分自身が「感染源」となり、周囲の、特に抵抗力の弱い人々へ病気をうつしてしまうことにあります。最も危険なのが、生後6ヶ月未満の赤ちゃんへの感染です。赤ちゃんは、百日咳ワクチンの定期接種をまだ完了しておらず、母親からの免疫も十分ではありません。もし、この時期の赤ちゃんが百日咳にかかると、激しい咳発作によって呼吸ができなくなり、無呼吸発作やけいれん、脳症といった、命に関わる極めて重篤な合併症を引き起こすリスクが非常に高いのです。家庭内に赤ちゃんがいる、あるいは、保育士や医療従事者など、乳幼児と接する機会の多い大人が百日咳にかかることは、絶対に避けなければなりません。その他にも、高齢者や、喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)といった呼吸器系の持病がある人が感染すると、重症化しやすいとされています。大人の百日咳を放置することは、自分自身の体を痛めつけるだけでなく、社会的な責任を放棄することにも繋がりかねません。長引く咳は、体からの重要な警告です。決して放置せず、速やかに医療機関を受診してください。
大人の百日咳、放置するリスクと恐ろしい合併症