顎が外れたという症状に対して歴史的に知られている整復法がヒポクラテス法です。これは古代ギリシャの医師ヒポクラテスが考案したとされる手法で現代の医療現場でも基本となる動きです。具体的には術者が患者の奥歯に親指を置き残りの指で下顎の角を掴んで下方に強く押し下げながら後方へと誘導するものです。しかしこの方法は解剖学的な知識と熟練した技術を必要とするため一般の人が自分で治すために行うには極めて不向きです。なぜなら顎が外れた状態では閉口筋と呼ばれる筋肉が反射的に収縮しておりこれを克服するためには適切なベクトルと力加減が必要だからです。自分で自分の顎に対してこの力を加える場合力の方向が分散してしまい関節を正しい位置に戻すどころかさらに前方に押し出してしまう危険があります。また顎を押し下げる際には相当な指の力が必要であり自分自身の指で行うと反射的に口を閉じる力が働いた際に指を骨折レベルの力で噛み切ってしまう事故も報告されています。医療機関では患者をリラックスさせ場合によっては局所麻酔や点滴での筋弛緩剤を使用して筋肉の緊張を解いてから行います。このような環境を整えずに自分で治すことは医学的見地から見ても推奨されません。さらに顎が外れた原因が単なる開口だけでなく打撲や外傷によるものである場合骨折を伴っている可能性が高く無理に動かすことで神経損傷や大出血を招く恐れもあります。顎関節は体の中でも非常に複雑な動きをする関節であり左右のバランスが少し崩れるだけでも全身の歪みや慢性的な頭痛に直結します。自分で治すことに成功したとしてもそれが完全な位置に戻っている保証はなく亜脱臼の状態が続くことで関節円板が変形してしまうこともあります。1度外れると癖になると言われますがそれは整復が不完全であったり靭帯が伸びきったまま放置されたりすることが大きな要因です。したがって顎が外れた際には応急処置として顎を包帯や三角巾で固定し一刻も早く専門医の診察を受けることが後遺症を防ぐ唯一の方法です。ヒポクラテス法はあくまでプロの技術であることを認識し自分自身の体に対して過信せず適切な医療介入を選択することが賢明です。