手首や指に痛みを感じた時、多くの人は「腱鞘炎だろう」と自己判断しがちです。しかし、似たような症状を引き起こす病気は他にも存在し、中には全く異なる治療が必要な、より深刻な病気が隠れている可能性もあります。正しい治し方を選択するためにも、腱鞘炎と間違いやすい他の病気との違いを知っておくことは非常に重要です。まず、腱鞘炎と最も鑑別が必要なのが「手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)」です。これは、手首の中心部にある、神経や腱が通るトンネル「手根管」の中で、正中神経という神経が圧迫されることで起こります。腱鞘炎との大きな違いは、痛みに加えて、「しびれ」が主な症状である点です。特に、親指、人差し指、中指、そして薬指の親指側の三本半の指先に、ピリピリ、ジンジンとしたしびれや、感覚が鈍くなる感じが現れます。夜間や明け方に、しびれや痛みで目が覚めることも、この病気の特徴です。手を振ると、症状が少し楽になることがあります。次に、関節そのものに炎症が起こる「関節炎」も、腱鞘炎と間違えやすい病気です。特に、中高年の女性に多い「変形性関節症(母指CM関節症など)」は、指の付け根の関節軟骨がすり減ることで、痛みや腫れ、関節の変形を引き起こします。動かした時の痛みが主ですが、安静時にも痛むことがあります。また、「関節リウマチ」は、自己免疫の異常によって、全身の関節に炎症が起こる病気です。朝起きた時に関節がこわばる「朝のこわばり」や、複数の関節が左右対称に腫れて痛むのが特徴で、指の第二関節(PIP関節)や手首の関節が好発部位です。これらの関節炎は、レントゲン検査で関節の状態を確認することで、腱鞘炎との鑑別が可能です。その他にも、手首の骨折や、ガングリオン(関節にできるゼリー状の腫瘤)が神経を圧迫して痛みを引き起こしているケースもあります。これらの病気は、放置すれば症状が悪化し、後遺症が残る可能性もあります。「ただの腱鞘炎」と決めつけず、しびれを伴う、複数の関節が痛む、朝のこわばりがある、といった症状がある場合は、必ず整形外科を受診し、専門医による正確な診断を受けるようにしてください。