「虫歯はないはずなのに、奥歯で噛むと歯が浮いたような感じがして痛い」。このような鈍い痛みを訴える場合、その原因は「歯周病」である可能性が濃厚です。歯周病は、歯茎の炎症から始まり、進行すると歯を支える顎の骨(歯槽骨)を溶かしてしまう、静かで恐ろしい病気です。そして、この骨の破壊がある程度進んだ時に、初めて「噛むと痛い」という自覚症状として現れるのです。健康な歯は、歯槽骨の中にしっかりと植立しており、歯と骨の間には「歯根膜」という薄いクッションのような組織が存在します。この歯根膜が、噛んだ時の強い力を和らげ、骨に伝える重要な役割を担っています。しかし、歯周病が進行すると、歯の周りの骨が溶けてなくなり、歯を支える土台が弱くなっていきます。その結果、歯は少しずつぐらつき始めます。この不安定な状態で食べ物を噛むと、歯が正常な範囲を超えて動揺し、歯根膜に過剰な負担がかかります。この負担が炎症を引き起こし、「噛むと痛い」「硬いものが噛めない」「歯が浮いたような感じがする」といった症状として感じられるのです。さらに歯周病が悪化すると、歯と歯茎の間の溝(歯周ポケット)が深くなり、その中で歯周病菌がさらに増殖します。そして、体の抵抗力が落ちた時などに、歯茎が急性炎症を起こして大きく腫れ上がり、膿を出すことがあります(歯周膿瘍)。こうなると、噛むどころか、歯が少し触れただけでも激しい痛みを感じるようになります。歯周病の怖いところは、初期から中期にかけては、ほとんど自覚症状がないまま進行することです。歯磨きの時に少し出血する程度で、痛みを感じることは稀です。そして、「噛むと痛い」という症状が出た時には、すでに歯を支える骨のかなりの部分が失われ、歯周病が相当進行してしまっているケースが少なくないのです。この痛みは、あなたの歯がその土台を失いかけているという、最後の悲鳴なのかもしれません。
歯周病が進行すると噛むだけで痛くなる