百日咳の治療で抗菌薬を飲み終え、菌の排出も止まり、激しい咳発作のピークは乗り越えた。しかし、それから数週間、数ヶ月経っても、ふとした瞬間に咳き込んだり、風邪をひくと咳だけが長引いたりする。そんな「後遺症」とも言える症状に悩まされる大人は、決して少なくありません。百日咳は、感染力がなくなった後も、その爪痕を気道に残していくことがあるのです。なぜ、菌がいなくなっても咳が続いてしまうのでしょうか。その主な理由は、百日咳菌が産生する「毒素」によって、気道の粘膜が深刻なダメージを受けているためです。百日咳菌は、気道の表面にある繊毛(せんもう)という、異物や痰を外に運び出す役割を持つ、細かい毛のような組織を麻痺させ、破壊してしまいます。この繊毛の機能が回復するには、非常に長い時間がかかります。そのため、気道が非常に敏感で、過敏な状態(気道過敏性)が続いてしまうのです。健康な人なら何ともないような、わずかな刺激、例えば、冷たい空気、タバコの煙、会話、あるいは笑ったことさえもが、咳のスイッチとなってしまい、一度咳き込むと止まらない、という状態が続くことがあります。この状態は、「感染後咳嗽(かんせんごがいそう)」と呼ばれ、百日咳だけでなく、マイコプラズマ感染症など、他の呼吸器感染症の後にも見られることがあります。多くの場合、この咳は時間と共に、数ヶ月から半年、長い人では一年ほどかけて、徐々に軽快していきます。この回復期間を少しでも楽に過ごすためには、気道への刺激を極力避ける生活を心がけることが大切です。部屋の湿度を適切に保ち、乾燥を防ぐ。マスクを着用して、冷たい空気やホコリを直接吸い込まないようにする。禁煙はもちろん、受動喫煙も避ける。こまめな水分補給で、喉の潤いを保つ。これらの地道なセルフケアが、傷ついた気道の回復を助けてくれます。もし、咳が日常生活に支障をきたすほど辛い場合や、喘息のようなゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音(喘鳴)を伴う場合は、咳喘息や気管支喘息へと移行している可能性も考えられます。その場合は、我慢せずに、再度、呼吸器内科を受診してください。吸入ステロイド薬など、気道の炎症を抑える専門的な治療によって、症状を大きく改善できる可能性があります。
百日咳の咳が治った後も続く後遺症とは