社会人になって数年が経った頃、ふと鏡を見たときに自分の笑顔に違和感を覚えました。なんだか口元が暗い印象なのです。よく見てみると、上の前歯の歯茎が、全体的に黒ずんでいるように見えました。健康な歯茎はピンク色だという知識はあったので、これは何かの病気ではないかと、急に不安に襲われました。当時の私は、仕事のストレスからか、喫煙本数がかなり増えていました。一日に一箱以上吸うことも珍しくなく、休憩時間のたびに一服するのが習慣になっていました。また、眠気覚ましに濃いコーヒーを一日何杯も飲む生活でした。インターネットで「歯茎 黒い」と検索すると、出てくるのは「喫煙」や「歯周病」、そして「口腔がん」といった恐ろしい言葉ばかり。不安は頂点に達し、私は意を決して近所の歯科医院の予約を取りました。診察室で恐る恐る歯科医師に相談すると、先生は私の口の中を丁寧に見た後、こう言いました。「これは、喫煙によるメラニン色素の沈着、いわゆるスモーカーズメラノーシスですね」。タバコに含まれるニコチンやタールといった有害物質から歯茎を守ろうとして、体が防御反応でメラニン色素を過剰に作り出し、それが沈着して黒ずんで見えるのだという説明でした。病気ではないと聞いて心から安堵しましたが、同時に、自分の体が悲鳴を上げていたのだと知り、長年の不摂生を深く反省しました。先生からは、この黒ずみを改善する一番の方法は禁煙であること、そして専用の薬剤で色素を除去する治療法もあることを教えてもらいました。私はその日を境に、禁煙を決意しました。最初はとても辛かったですが、歯茎の色が自分の健康の指標だと思うと、不思議と頑張ることができました。そして、歯科医院で歯のクリーニングをしてもらい、正しい歯磨きの指導も受けました。数ヶ月後、完全にタバコをやめ、セルフケアを続けた結果、私の歯茎は少しずつ本来の明るいピンク色を取り戻していきました。あの黒ずみは、私に生活習慣を見直すきっかけを与えてくれた、体からの大切なメッセージだったのだと今では思っています。
私の歯茎が黒ずんで見えた本当の理由