あれは、入社して初めての大きなプレゼンテーションの日でした。何日も前から準備を重ね、当日の朝は気合を入れて、いつもより少しだけ濃いめの赤い口紅を引きました。自信を持って、堂々と振る舞うための、私なりのおまじないのようなものでした。プレゼンは順調に進み、質疑応答も無事に終え、私は安堵のため息をつきながら自席に戻りました。その時、隣の席の先輩が、そっと私に小さなメモを渡してくれたのです。そこには「歯に口紅ついてるよ」と書かれていました。血の気が引くとは、まさにこのこと。慌ててトイレに駆け込み、鏡に映った自分の顔を見て愕然としました。私の前歯には、まるでホラー映画のように、あの気合を入れた赤い口紅がべったりと付着していたのです。一体いつから。プレゼンの間、ずっとこの状態だったのだろうか。上司も、取引先の人も、私の歯を見ながら話を聞いていたのかと思うと、顔から火が出るほど恥ずかしく、プレゼンの内容など全て吹き飛んでしまいました。その日以来、私は口紅を塗るのが怖くなりました。塗ってもすぐにティッシュで押さえて色をほとんど消してしまったり、そもそも口紅を塗らずに出社したりする日も続きました。しかし、ある日鏡に映る血色の悪い自分の顔を見て、このままではいけない、と一念発起したのです。私はまず、歯紅が起きる原因を徹底的に調べました。そして、自分の場合は、唇の内側まで口紅を塗りすぎていたこと、そしてプレゼンの緊張で口が乾いていたことが大きな原因だと気づきました。それからは、口紅の塗り方を根本から見直しました。まず、リップクリームでしっかりと保湿した後、唇の中央から外側に向かって塗り、内側の粘膜には色が付かないように細心の注意を払う。そして、仕上げに必ずティッシュを軽くくわえて余分な油分をオフする。この一手間を加えるだけで、歯紅は劇的に起こりにくくなりました。あの大失敗は、私にとって苦い経験でしたが、正しいメイクの方法と、身だしなみへの意識を教えてくれた、忘れられない教訓となっています。