それはいつもと変わらない朝のはずでした。洗面所で歯を磨こうと口を開けた瞬間、鏡に映る自分の口元に違和感を覚えたのです。下の前歯の歯茎が、なんだか赤く腫れ上がっている。恐る恐る指で触れてみると、そこはまるで水風船のように、ぶよぶよとしていました。痛みはそれほど強くありませんでしたが、その異様な感触に、心臓がどきりとしました。前日までは何ともなかったはずなのに、一体何が起きたのだろう。不安な気持ちで一日を過ごしました。食事のたびに、食べ物が患部に当たるのが気になり、温かいものが少ししみるような気もします。仕事中も、つい舌でそのぶよぶよした部分を触ってしまい、集中できません。インターネットで「歯茎 腫れ ぶよぶよ」と検索すると、出てくるのは「歯周病」という文字ばかり。歯が抜ける、骨が溶けるといった恐ろしい情報が目に飛び込んできて、私の不安は頂点に達しました。このまま放置してはいけない。私はすぐに歯科医院に電話をかけ、予約を取りました。診察の日、歯科医師は私の口の中を丁寧に見て、レントゲンを撮りました。そして告げられた診断は、やはり「歯周病」でした。幸い、まだ初期の歯肉炎に近い段階で、骨の吸収は始まっていないとのこと。原因は、日々の歯磨きで磨き残した歯垢が溜まり、歯茎が炎症を起こしていたことでした。ぶよぶよの正体は、炎症によって腫れた歯茎そのものだったのです。その日から、私の歯磨き習慣は一変しました。歯科衛生士さんから、歯ブラシの当て方、歯間ブラシの使い方を徹底的に教わりました。今までいかに自分が雑に磨いていたかを痛感した瞬間でした。治療として歯石をきれいに取り除いてもらい、教わった通りのセルフケアを毎日続けました。すると、一週間も経つ頃には、あれほど気になっていた歯茎の腫れとぶよぶよ感はすっかり引き、引き締まったピンク色の歯茎が戻ってきました。この一件以来、私は歯磨きの時間をとても大切にしています。あのぶよぶよは、私の体がいい加減な生活習慣に送った、最後の警告だったのだと今では思っています。