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大人の百日咳の治療法。薬と療養期間
大人の百日咳と診断された場合、その治療はどのように行われるのでしょうか。治療の目的は、百日咳菌そのものを叩くこと、そして、辛い咳の症状を和らげること、さらに、周囲への感染拡大を防ぐこと、の三つが柱となります。まず、百日咳菌に対する最も重要な治療が「抗菌薬(抗生物質)」の投与です。百日咳菌には、マクロライド系の抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)が非常に有効です。これらの抗菌薬を服用することで、体内の菌を殺し、菌の排出を止めることができます。重要なのは、この抗菌薬の効果が現れるタイミングです。咳が出始めてから1〜2週間の比較的早い時期(カタル期)に服用を開始すれば、その後の激しい咳の期間を短縮したり、症状を軽くしたりする効果が期待できます。しかし、咳が激しくなってから(痙咳期)服用を開始した場合、すでに菌が出した毒素によって気道の炎症が起きてしまっているため、咳そのものを劇的に改善する効果は限定的です。それでも、抗菌薬の服用は、周囲への感染を防ぐ上で極めて重要です。抗菌薬を5日間程度服用すれば、菌の排出はほぼなくなり、感染力は失われるとされています。次に、辛い咳の症状を和らげるための「対症療法」です。残念ながら、百日咳の激しい咳発作に特効薬はありません。一般的な咳止め(鎮咳薬)は、ほとんど効果がないとされています。去痰薬や、気管支を広げる薬が、補助的に処方されることもありますが、その効果は限定的です。何よりも重要なのが、咳を誘発する刺激を避けることです。タバコの煙や、冷たく乾燥した空気、ホコリなどは、気道を刺激して咳発作を引き起こします。禁煙はもちろんのこと、室内の加湿や、こまめな水分補給を心がけましょう。そして、療養期間と仕事への復帰について。感染力の観点からは、適切な抗菌薬を5日間服用すれば、出勤は可能と判断されるのが一般的です。しかし、その後も激しい咳は数週間から数ヶ月続くことがあります。咳発作は非常に体力を消耗するため、決して無理はせず、十分な休息と栄養を摂ることが、回復への一番の近道です。医師と相談しながら、自分の体調に合わせて、少しずつ社会生活に戻っていくことが大切です。